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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)7294号 判決 1981年2月26日

原告

日新火災海上保険株式会社

被告

北大阪自動車株式会社

主文

一  被告は原告に対し、金一〇〇万一二〇〇円及びこれに対する昭和五三年一一月二五日から支払ずみまで年五分による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告は被告に対し、金一三八万一六〇〇円及びこれに対する昭和五三年一一月二五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  第一項につき、仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

昭和五三年一月二七日午前三時二〇分ごろ、大阪市南区心斎橋筋一丁目三三番地先交差点において、東から西に向かつて直進中の訴外福永興生運転の普通乗用自動車(大阪三三か七一八号。以下「甲車」という。)と、南から北に向かつて直進中の訴外福崎充男運転の普通乗用自動車(大阪三三ろ五九八号。以下「乙車」という。)とが衝突し、その衝撃で甲車は同交差点の北西角にある訴外株式会社大丸百貨店(以下「訴外大丸」という。)の店舗等に衝突し、よつて同店舗を破損するとともに、訴外大和興業株式会社(以下「訴外会社」という。)所有の乙車を破損した。

二  責任

1  訴外福永は被告雇用の従業員であつて、同人は被告の業務を執行中、一時停止標識があるにもかかわらず、一時停止を怠つて本件交差点に進入した過失により本件事故を発生させた。

2  訴外福崎は訴外会社の従業員であつて、同人は同社の業務を執行中、通行が禁止されていたにもかかわらず、これを看過し、本件交差点に進入した過失により本件事故を発生させた。

3  そして、本件事故の過失割合は、甲車側四割、乙車側六割とすべきである。

三  訴外大丸の損害について

1  訴外大丸の店舗内ステンレス支柱及びガラス、その他備品の損害 二〇五万円

2  ところで、原告は昭和五二年一〇月一六日、訴外会社との間で、乙車につき、保険金額二〇〇万円、保険期間を昭和五二年一二月一六日から一年間とする自動車対物賠償責任保険契約を締結していた。

3  そこで、原告は、前項の契約に基く訴外会社の委任を受け、訴外大丸に対し、昭和五三年七月二七日、二〇〇万円を支払つた。

4  したがつて、訴外会社は前項の支払により、前記過失割合に基づき、訴外大丸に対する共同不法行為者である被告に対して八〇万円の求償権を取得し、原告は訴外会社に対する保険金の支払いにより、商法六六二条によつて訴外会社が被告に対して有する右求償権を取得した。

四  訴外会社の損害について

1  訴外会社の乙車破損に伴う修理費用 一四五万四〇〇〇円

2  ところで、原告は昭和五二年一〇月一六日、訴外会社との間で、乙車につき、保険金三〇〇万円、保険期間を昭和五二年一二月一六日から一年間とする車両保険契約を締結していた。

3  そこで、原告は、前項の契約に基づき、訴外会社に対し、昭和五三年八月一日、一四五万四〇〇〇円を支払つた。

4  そして、訴外会社は前記過失割合により、被告に対し、五八万一六〇〇円の損害賠償請求権を有していたところ、原告は訴外会社に対する保険金の支払により、商法六六二条によつて右損害賠償請求権を取得した。

五  よつて、原告は被告に対し、前記三及び四の合計金一三八万一六〇〇円及びこれに対する保険金支払日の後である昭和五三年一一月二五日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求原因に対する答弁並びに被害の主張

1  請求原因一は認める。

2  同二について

1のうち、訴外福永に過失があることは争うが、その余は認める。

2は認める。

3は争う。訴外福崎は、車両通行禁止道路を、前方左右を注視することなく、しかも高速度で無謀に進行したもので、本件事故は、同人の一方的過失によるものである。かりに、訴外福永に過失ありとしても、その割合は、原告主張のようなものではない。

3  同三について

1は不知。

2、3は認める。

4は争う。

4  同四について

1は不知。

2は認める。

3は不知。

4は争う。

第四証拠〔略〕

理由

一  事故の発生と責任

請求原因一は、当事者間に争いがない。

同二の1のうち、訴外福永は被告雇用の従業員であつて、同人は被告の業務執行中、本件事故を発生させたことは、当事者間に争いがなく、後記二のとおり訴外福永に過失があることも認められるから、被告は、民法七一五条一項により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

同二の2は、当事者間に争いがないから、訴外会社は、民法七一五条一項により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

二  事故の態様及び過失割合

前記一の事実に、成立に争いのない甲第七号証の一ないし三、第八号証の一、第九ないし一五号証、弁論の全趣旨を併せると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場は、いずれもアスファルト舗装された、南北に通じる心斎橋筋と東西に通じる清水町筋とがほぼ直角に交差する、信号機の設置のない十字型交差点内であり、両道路の両側とも商店の店舗が立ち並んでいるため、相互の見通しは悪い。

心斎橋筋の幅員は約六メートル、清水町筋の帽員は交差点東側が北側に設けられた路側帯(幅員約一・三メートル)を除き、約六・三メートル、交差点西側が路側帯はなく、東側とほぼ同じである。

心斎橋筋は車両通行禁止の規制がなされ、許可車以外の通行は禁止されていた。清水町筋は、西行一方通行の規制がなされ、交差点西側には、入口付近に、一時停止標識が設置され、路面にも、一時停止線がひかれており、最高速度は時速三〇キロメートルに制限されている。本件事故当時深夜で、交差点内はやや明るい程度で、付近一帯には歩行者はほとんどなかつた。

2  訴外福永は、甲車を運転し、時速約四〇キロメートルで清水町筋を西進し本件交差点にさしかかつた際、先行するタクシーが車両通行禁止の交通規制を無視して心斎橋筋を南方に左折するため減速したので、これに続き、約三五キロメートルに減速したものの、同交差点手前で一時停止することも、左右道路の安全を確認することも全くないまま、同交差点に進入した。なお、同人は、事故前タクシー運転手として、本件交差点を深夜たびたび通行したことがあつて、前記の一時停止標識のあることも、また心斎橋筋が車両禁止の規制になつているにもかかわらず、夜間これに違反して通行する車両のあることも知つていた。

3  訴外福崎は、乙車を運転し、心斎橋筋の通行禁止標識を見過ごして、同筋を時速約四〇キロメートルで北進し、本件交差点にさしかかつた際、同交差点手前約一〇メートルで、清水町筋から心斎橋筋に左折南進してくる前記タクシーとすれ違つたが、そのまま北進して同交差点に進入したため、甲車右側部に乙車前部を衝突させた。

以上の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠は存しない。なお、甲八号証の二、第一一号証中には、訴外福崎が飲酒していた旨の供述部分が存するけれども、前記甲第一〇号証、第一三、一四号証に照らし、到底信用できない。

右認定事実によれば、訴外福永は、一時停止標識に従わず、左右の安全を全く確認することもないまま、本件交差点に進入した過失が認められるが、他方訴外福崎にも、車両通行禁止標識を看過し、左右の安全不確認のまま、本件交差点に進入した重大な過失が認められ、両者の過失が競合して本件事故が発生したというべきである。

そして、双方の過失内容を対比すると、両者の過失割合は訴外福永が三、訴外福崎が七と認めるのが相当である。

三  訴外大丸の損害

証人酒井孝蔵の証言とこれにより成立の認められる甲第一号証によれば、請求原因三の1が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

また、請求原因三の2及び3は、当事者間に争いがない。

ところで、前記一、二の事実によれば、訴外会社と被告は、訴外大丸の損害を賠償する義務があり。右各義務は、訴外大丸との関係では、不真正連帯の関係にあるが、両者の内部関係においては、運転者の過失割合によつて負担部分が決定され、自己の負担部分を超える賠償をなした者は、その負担部分を超える部分につき、他方に対して求償権を取得することになると解すべきである。そうすると、訴外会社は原告に委任して二〇〇万円を支払つているので、同会社の負担部分一四三万五〇〇〇円(訴外大丸の総損害額二〇五万円の七〇パーセントに相当する。)を超える部分五六万五〇〇〇円につき、被告に対して求償権を取得したことになる。

そうして、原告は前記保険契約に基づき、二〇〇万円の保険金を支払つているので、商法六六二条により、訴外会社が被告に対して有する右求償権を取得したということになる。

四  訴外会社の損害

証人上田昌男の証言とこれにより成立の認められる甲第三号証によれば、請求原因四の1が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

請求原因四の2は当事者間に争いがなく、証人上田昌男の証言とこれにより成立の認められる甲第五号証によれば、同四の3が認められる。

したがつて、訴外会社が被告に対して賠償を求め得る損害額は、訴外福崎の過失割合を相殺し、減額した四三万六二〇〇円となる。そうして、原告は前記保険契約に基づき、一四五万四〇〇〇円の保険金を支払つているので、商法六六二条により、訴外会社が被告に対して有する右損害賠償請求権を取得したことになる。

五  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、金一〇〇万一二〇〇円及びこれに対する保険金の支払日の後である昭和五三年一一月二五日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行の宣言につき民訴法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 佐々木茂美)

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